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前橋地方裁判所 昭和27年(行)1号 判決

原告 黒沢綾子

原告側補助参加人 黒沢丈市

被告 美原村農業委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用中原告と被告との間に生じた部分を原告の負担とし、参加によつて生じた部分を補助参加人の負担とし、参加に対する異議によつて生じた部分を被告の負担とする。

二、事  実

原告は、適式の呼出をうけながら終始期日に出頭せず、その陳述したものとみなされた訴状、並びに訴状補正書によれば、「被告が樹立した別紙第一目録記載の農地買収計画を取消す。被告が樹立した別紙第二目録記載の農地買収計画中畑六畝二十六歩に関する部分の中、別紙第一目録記載の畑一畝二十四歩、並びに現に山林又は法久街道々路敷になつている部分及び宅地三筆(甲千七百番の二、千六百九十九番、乙千七百番)に関する部分を取消す訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として主張するところは次のとおりである。

第一、被告は昭和二十六年八月十五日別紙第一目録記載の農地が小阪政夫の小作地だとして買収計画(以下第一号買収計画と略称する)を樹立し、同月二十日これを公告すると共に原告に通知した。原告は同月二十六日、右目録記載の土地一畝二十四歩(以下第一号地と略称する)の上に他人の耕作権不存在を理由として、被告に対し異議申立をしたが、同年九月七日右申立は棄却されたので、同月十五日群馬県農業委員会に訴願した。右委員会は、右訴願を審査した結果被告の買収計画に欠陥のあることを自認したけれども、故意に右訴願に対する裁決を引延ばし、自作農創設特別措置法(以下自作農法と略称する)所定の期間を徒過したまゝ尚裁決をしないでおく一方、被告は昭和二十七年一月十一日買収の基礎理由を変更して右土地を含む別紙第二目録記載の農地買収計画(以下第二号買収計画と略称する。なお第二目録記載の土地―第一号地を含む―を以下第二号地と略称する)を樹立公告し、且つ原告に通知した。原告は同月十七日右買収計画を違法として被告に対し異議申立をしたが、同年二月十二日棄却されたので、同月十六日更に群馬県農業委員会に訴願した。而して右委員会は同月二十九日前記二つの訴願について、前者は却下、後者は棄却の裁決をなし、これら裁決書はいずれも同年三月二十五日原告に送達された。

第二、しかしながら、前示二つの買収計画はそれぞれ次の点において違法である。

先ず第一号買収計画については、被告は本計画実行の意思がないのだから取消すべきであり、仮りにその意思があるとしても、この土地は小作地ではないから、違法として取消さなければならない。

次に第二号買収計画については、この中畑六畝二十六歩の内第一号地に関する部分は第一号買収計画と重複するから違法であり且つ同地(畑六畝二十六歩)の北部一帯は現に山林で、西南端は法久街道々路敷(この道路は原告が後記の宅地三筆上で商売を営みその繁昌を図る目的で公衆の通行の用に供するため、永年公租公課を負担して公衆のために無償提供中の土地である)で農耕の用に供しているものでないからこの部分についての買収計画は違法である。而して被告は右計画において、畑六畝二十六歩の一部即ち第一号地の部分を小阪政夫が耕作中であることを前提としているが同人は本計画当時これを耕作していない。又、第二号地中宅地三筆は農地でないし、又仮に農地であつたとしても、その一部は既に群馬県が勝手に県道々路敷としてしまつたのであつて、これは農地でないから本計画中この部分は違法である。よつて本訴に及ぶと云うのである。

原告補助参加人は被告指定代理人には被告を代理する資格がないと申し立てた。(立証省略)

被告指定代理人は、請求棄却の判決を求め、原告の主張事実中第一の事実は、次に述べる日時の点及び第一号買収計画に対する訴願についての裁決を故意に引延ばしたとの点を否認し、その余の事実を認め、被告は昭和二十六年五月三十一日第一号地につき自作農法第三条第一項第一号の該当事件として買収計画を樹立しこれに対し原告は同年八月二十五日被告に対し異議申立をしたが被告は同年九月六日これを棄却し、翌七日この決定書を送付しその後再検討の結果同年十二月二十七日自発的に右買収計画を取消したのである。又これと同日、被告は第二号買収計画を樹立し、これに対する原告の異議申立について昭和二十七年一月二十六日棄却の決定をし、同年二月十二日この決定書を原告に送付したのである。と述べ、第二の事実に対し第二号地の南部が県道に接し東北部が山林に接続している事実はあるが、その南部が県道々路敷となつているとの事実は不知、その余の事実は否認する。第一号買収計画は、昭和二十六年十二月二十七日被告において自発的に取消しているから右買収計画の取消を求める原告の請求は理由なく、第二号地はすべて農地で、この中第一号地を除く部分は、訴外黒沢フサが耕作しており、黒沢フサは原告の養母であるが、原告は従前東京都板橋区に居住し、戦災により現住所埼玉県下深谷町に転居したものであつて、養母と同居し耕作中病気となり、その療養のため一時不在となつたのではないから自作農でないと認定し、自作農法第三条第五項第二号の仮装自作地として本計画を樹立したものである。第一号地は訴外小阪福蔵が、前記黒沢フサが有するこの土地の管理権にもとずき、右フサから使用借りして耕作していたのであるが、昭和二十三年右福蔵が死亡し、その後現在迄右福蔵の子である訴外小阪政夫が耕作しているのであるが、これは新たに前記フサとの間に使用貸借の権利関係ができたことによるものと認めて、遡及現在日(昭和二十年十一月二十三日)と買収計画を樹立した時期とにおいて耕作者が異つた農地として自作農法第六条の五により買収計画を樹立したものである。なお原告が法久街道と称するものは既に廃道である。よつて原告の請求は棄却さるべきであると陳述した。(立証省略)

三、理  由

原告の補助参加人は、被告指定代理人の代理資格を争うので、先ずこれについて按ずるに国の利害に関係のある訴訟についての法務総裁の権限等に関する法律第五条によれば、行政庁は所部の職員でその指定するものに行政庁を当事者又は参加人とする訴訟を行わせることを妨げない旨規定しているのであつて、被告の提出にかゝる「村農業委員会書記任命について承認申請」、「書記委嘱方承認について(回答)」と題する各書面及び辞令によれば、表記太原順三は従来群馬県事務吏員であつたが、群馬県知事の承認をえて昭和二十七年五月十四日被告から被告委員会書記に委嘱され、同日被告を代表する被告委員会々長佐藤源太郎によつて本件訴訟を行う職員に指定されたことが認められるのであるから、右太原が被告委員会において本件訴訟に関する事務以外の事務を処理せず、被告から給与を受けてないとしても、被告指定代理人としての代理資格に欠ける所はない。

被告が第一号買収計画を樹立し、昭和二十六年八月二十日これを公告したこと及び同年十二月二十七日(日時は成立に争のない乙第一号証の記載によつて認める)第二号買収計画を樹立し、同二十七年一月十一日これを公告したこと及び、右それぞれの買収計画に対し原告主張の各日時(第一号買収計画に対する異議申立の日、第一号並びに第二号買収計画に対する各異議申立棄却決定の日を除く)にその主張のような農地買収計画の通知、右計画に対する異議申立、これに対する棄却の決定、訴願、これに対する裁決、裁決書の送達のあつたことはいずれも当事者間に争なく、成立に争のない乙第四号証の一、二の記載によれば、第二号買収計画に対する異議申立棄却の日は昭和二十七年一月二十六日であり右決定書送付の日は同年二月十二日であることが認められ、第一号買収計画に対する異議申立の日については、原告の主張によれば八月二十六日であり、被告の主張によれば同月二十五日であり又右異議棄却決定の日は原告の主張によれば九月七日であり、被告の主張によれば同月六日で右決定書送付の日が同月七日であると云うのであつて、このいずれかを認めるに足りる証拠はないけれども、いずれにしても本件行政訴訟の出訴期間の遵守には影響がないからこの点に関する限り本訴は適法なものと考えられる。

よつて進んで第一号買収計画について按ずるに、被告は昭和二十六年十二月二十七日右買収計画を取消したと主張するところ前掲乙第一号証によれば、前記日時に開催された被告委員会々議において、被告委員会々長が第二号買収計画を決定するか否かの議案提出に際し、「裁決保留となつた前回買収分(第一号買収計画を指すものと認める)は当然取消すことになりますが、この点についても御承認を願いたいと思います」と説明し、被告委員会委員は全員一致で第二号買収計画を決定する旨の決議をしていることが認められ、而も第二号買収計画中には第一号買収計画の対象たる第一号地をも含んでいること当事者間に争がないのであるから、被告はこの会議において第一号買収計画を取消す旨決定したものと解せられる。もつとも右取消の決定が直ちに原告へ告知されたことを認めるに足る証拠はないが、同一行政庁が同一土地について時を異にして二個の買収計画を公告したときには特段の事情のない限り、後の公告は前の買収計画を取消す旨を暗黙に告知しているものと解すべきであるから、本件においても従前認定の諸事実にもとずけば第二号買収計画が昭和二十七年一月十一日公告され且つ原告に通知されたときにおいて右決定は原告に告知されたと考えられる。而して第一号買収計画は右告知のときに有効に取消されたものと判断できる。そうすると本訴中第一号買収計画の取消を求める部分は、取消の対象がなくなつたのであるから棄却されなければならない。

次いで第二号買収計画の適否について按ずるに、原告の第一号地が第一号買収計画の対象にもなつているから重複する処分であつて違法であるとの主張については、右買収計画が有効に取消されていること前示のとおりであるから理由なく、その他の主張については、前掲乙第一号証第四号証の一、二、証人小阪政夫、同新井宣雄の各証言及び証人黒沢フサの証言を綜合すれば、第二号地はもともと訴外黒沢フサの亡夫名義であつたのを原告名義に変えたものであるが、同訴外人は出生以来引続き第二号地から僅かに七、八町を隔てるにすぎぬ居宅に居住し、そこには同訴外人の養子である補助参加人が四ケ月ばかり同居したことがあるだけで、補助参加人の妻である原告も十数年来病床にあつて終始別居して来たものであつて、黒沢フサは原告より本件土地に関する管理その他一切の権限を付与せられ、この土地の中第一号地は昭和二十年十一月二十三日以前より訴外小阪福蔵が右フサから借受耕作し小阪福蔵死亡後はその子訴外小阪政夫が昭和二十三年六月より引続き右フサから借受耕作していること、第二号地の中畑六畝二十六歩の部分は全部農地であつて、山林又は道路敷ではないこと及び第二号地の中宅地三筆も第二号買収計画樹立当時は現況農地であつたことを認定することができる。証人黒沢フサの証言中右認定に反する部分は信用し難く、丙第九、十一、十二号証その他参加人の提出援用する全証拠を以てしてもこれを覆すに足りない。よつて第二号買収計画を違法とする原告の主張は理由がない。そうすると、原告の請求はいずれも認容できないから棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条、第九十四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 奥田嘉治 黒沢信夫 柳川俊一)

(目録省略)

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